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育成出身”自転車通い”の開幕投手 病気乗り越え「誰もが届くものではない」マウンドで白星

ホークス

2023/04/01 08:00

  ソフトバンクが3年ぶりの覇権奪回へ好スタートを切った。3月31日、本拠地ペイペイドームにロッテを迎えての開幕戦に4-0で勝利。育成出身の4年目左腕、初の開幕投手を任された大関友久投手(25)が7回無失点、7奪三振の好投で白星を飾った。

   ◇   ◇   ◇

 何食わぬ顔で、初の大役をまっとうした。

 「1球目を投げるときにすごくワクワクできたので、いい状態で投げられました」
 
 先頭打者、荻野への5球目で自己最速タイの152キロ。2死後、再び152キロで山口から空振り三振を奪った。1巡目の打者9人から6奪三振。ロッテ先発小島との投げ合いで一歩も譲らず、5回までパーフェクトに抑え込んだ。

 穏やかそうに見えて芯は強い。

 開幕前、番組企画で使うための“通勤シーン”を撮影させてもらった。歴代の開幕投手(他の選手もそうだが)は高級車で球場入りすることが多いが、育成出身のサウスポーが愛用しているのは「クロスバイク」。つまり、自転車だ。

車ではなく自転車の理由は「一番通いやすいから」。実用的でシンプルなチョイスながら、一方で「いつかは車を買いたい」と人並みの欲も口にする。

 撮影の条件は撮り直しをしないこと。いわゆる演出のため何度もカメラを回すのは意に反しているという。それは普段の姿勢そのままだ。

 開幕投手が自転車で通勤しているー。そんな姿を伝えることでファンも親近感を抱くのではないか。こちらが思い描く意図を伝えると、はっきり言われた。

 「見ている方がそう感じてくださるのは良いですけど、開幕投手は誰もが手に届くようなものではないとも思っています」

 その言葉に、大役をつかむに至った過程への揺るがぬ自信を垣間見た。

 ちょうど1年前の3月31日、先発でプロ初勝利。白星を積み重ねる中で8月に精巣がんの疑いで手術を受け離脱したが、シーズン終盤に1軍復帰を果たした。命にかかわる現実と向き合い恐怖を感じたのは事実。それでも「迷っている時間がもったいない」と下を向くことはなかった。

 歩んできた道のりに確かな根拠があるから、そう簡単には崩れない。左膝の大けがから復活を懸けたシーズンに臨んでいる栗原が6回に先制3ラン。援護をもらった直後の7回、自身に打球が直撃する安打をきっかけにピンチを背負っても動じなかった。
 
 育成ドラフト2位で2020年に入団。コロナ禍でのプロ野球しか知らなかった世代だ。

 「苦しくなった時に拍手や声援でアドレナリンが出て奮い立たせてもらいました」

 7回無安打7奪三振。選ばれし者だけが立てるマウンドで大歓声を欲しいままにしたサウスポーは、心地よい夜風を浴びながら“愛車”で帰路に就いた。

 (鎌田真一郎)

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